売上は立っている。それでも、月が変わるたびにゼロから積み直している感覚が消えない。単発の仕事で事業を回していると、この状態が続きます。稼いだ額の問題ではなく、来月の売上を作るために、もう一度売らなければならないという構造の問題です。

ストック収益とは、解約されない限り翌月も入り続ける収益のことです。これに変えていく作業には順番があります。順番を飛ばすと、たいてい途中で止まります。この記事は、その全体像と順番を示す入口です。個別の手順は、それぞれの記事に分けてあります。

判断の起点は「1人あたり、いくら残るか」

ストック型に変えるかどうかを、月額の売上高で判断すると誤ります。月額3,000円の契約を100件取れば月30万円ですが、そこから原価と対応の手間を引いた後に何が残るかは、この数字からは分かりません。

見るのは、1人の顧客が契約している間に残す利益の合計です。売上高ではなく限界利益(売上から、その1件が増えたときに増える費用を引いた額)で数え、そこから、その1人を獲得するのにかかった費用を引きます。ここが赤字なら、契約が増えるほど資金は減ります。

計算の手順と、手元資金からどこまで獲得にお金を使ってよいかの決め方は、サブスクのLTV計算方法に整理しました。先にこの数字を出してください。 以降の判断は、すべてこの数字の上に乗ります。

手を付ける順番は4つ

段階やること飛ばすとどうなるか
1届けられる相手を手元に持つ商品を作ってから売り先を探すことになる
2いま売っているものを継続の形に置き換える新規開発に時間と金を使い、既存客が空く
3契約直後の導線を整える入った分と同じだけ抜けていく
4獲得にお金を使う回収の見通しがないまま費用だけが出る

この順番には理由があります。後の段階ほど、お金がかかるからです。 逆から始めると、効果が出るかどうかが分からないうちに資金が減ります。

1. 届けられる相手を手元に持つ

プラットフォームや紹介で売れていても、購入した人に自分から連絡できなければ、次の売上はまた一から作ることになります。一見客とリピート客を分けるのは、購入額ではなく、もう一度届けられるかどうかです。

手元に残す情報の範囲、集めて使う前に済ませておく個人情報保護法と特定電子メール法の約束ごと、最初の一歩は顧客リストを自社で持つにまとめています。

2. いま売っているものを継続の形に置き換える

ストック型に変えるとき、新しい商品を作る必要はほとんどありません。すでに納品しているものの後工程、つまり運用、更新、点検、相談といった、納品後も必要になる作業を切り出して月額にまとめる形が取れます。

移行するかどうかの判断と、1社あたりで収支を見る方法は受託をストック型に変えるにあります。

そして、月額に変えたあとで最も多く起きる失敗が、範囲を決めないまま始めることです。月額は変わらないのに作業だけが増え、実際に働いた時間で割った単価が下がっていきます。作業を数えられる単位に置き換える手順と、上限を超えたときの扱いは定額契約の業務範囲の決め方で扱っています。

この段階では、法律の側からの下支えも確認しておいてください。公正取引委員会と厚生労働省の案内によると、フリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は令和6年11月1日に施行され、発注事業者には、業務委託をした際に書面または電磁的方法で取引条件を明示することと、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定めることが義務付けられています。明示事項には「給付・役務の内容」が含まれます。範囲を書いてもらうことは、こちらの要望ではなく発注側の義務です。

3. 契約直後の導線を整える

契約は取れているのに数が積み上がらない、という相談は多くあります。この場合、原因は集め方ではなく、契約した直後の設計にあることがほとんどです。純増は、新規から解約を引いた数です。抜ける穴を塞がないまま新規を増やすと、獲得にかけた費用だけが増えます。

売り切り型の導線をそのまま流用したときに何が起きるか、引き止めで解約を減らそうとしてはいけない理由は、サブスク会員が増えない原因に整理しました。

4. 獲得にお金を使う

ここまでの3つが動いて初めて、広告に意味が出ます。1人あたりいくら残るかが分かっていれば、1人の獲得にいくらまで払えるかが決まります。分かっていなければ、広告の画面に出る獲得単価の安さだけを見ることになり、安く取れる層に寄っていきます。

媒体に返す成果の定義を、申し込み件数から手元に残る利益の側へ動かす手順は、リターゲティング広告の仕組みで扱っています。

自分がどこで詰まっているか

4つの段階のうち、どこに手を付けるべきかは、次の3つで見分けがつきます。どれも数分で確認できます。

  1. 直近1年に売った相手のうち、いまこちらから連絡できる人は何人か。 数えられなければ段階1です。
  2. 売上のうち、契約が続いている限り翌月も入るものは何割か。 ゼロに近ければ段階2です。
  3. 直近6か月の新規契約数と解約数を並べる。 解約が新規の半分を超えていれば段階3です。

3つとも問題がなく、それでも伸びが鈍いときに、初めて段階4の話になります。

「安定する」のは売上の見通しであって、利益ではない

ストック型に変えると、収入が安定すると言われます。安定するのは売上の見通しです。手元の現金は、むしろ一時的に減ります。

売り切りなら、売った月に全額が入ります。月額にすると、同じ金額を受け取るまでに何か月もかかります。一方で、獲得にかかった費用は最初の月に出ていきます。契約が増えるほど、立て替えている総額は増えます。 伸びている時期ほど現金が薄くなるのは、この形の性質です。

だから、獲得のペースは手元資金で決まります。回収に要する月数と、毎月の獲得件数と、1件あたりの獲得費を掛ければ、立て替えている総額が出ます。これを手元資金と比べてから、獲得に使う額を決めてください。

つまずきやすいところ

  • 月額の金額を、作業時間から積み上げて決める。 早く終えるほど受け取る額が減る形になり、効率化する動機がなくなります。価格は、維持される状態に対して付けてください。
  • 解約率を下げる施策から始める。 契約直後の設計が空いたままだと、引き止めは効きません。抜ける理由は、たいてい契約した最初の数週間で決まっています。
  • 既存客に売る前に、新商品を作る。 すでに買った相手にもう一度売るほうが、費用も時間もかかりません。作るのはその後です。
  • 1人あたりの数字を売上高で持つ。 限界利益で持ち直さないと、獲得にいくらまで使ってよいかを出せません。
  • 範囲を決めずに月額を始める。 含まれる作業を書かないと、範囲は相手の理解で決まります。増え方が緩やかなため、気付くのは1年後になります。