月額いくらで請け負う継続契約は、単発の受託より収入が読めます。ただし、読めるのは売上だけで、稼働は読めません。 範囲を決めずに始めた定額契約は、月額が変わらないまま作業だけが積み上がり、実際に働いた時間で割った単価が静かに下がっていきます。

下がり方が緩やかなことが、この問題を厄介にしています。ある月に急に倍になるのではなく、毎月少しずつ増えます。気付いたときには付き合いが長くなっていて、断ると関係が壊れそうに感じる。だから続ける。この記事では、そうなる前に決めておくことと、すでになっている契約をどう立て直すかを順に整理します。

継続契約に変えること自体の判断は受託をストック型に変えるで扱っています。ここでは、変えると決めたあとの範囲の設計に絞ります。

なぜ定額だと範囲が膨らむのか

原因は気質ではなく、契約の形にあります。定額契約には、追加の依頼をしたときに相手の支払いが増えない、という性質があります。発注側から見れば、頼むことの費用がゼロに見えます。費用がゼロに見えるものは、必ず使われます。 これは発注側が悪意を持っているという話ではなく、そういう設計になっているというだけのことです。

もう一つは、範囲の決まり方です。契約書に「サイトの運用」「マーケティングの支援」とだけ書いてあるとき、その言葉が何を指すかは、書いた側ではなく読んだ側が決めます。読んだ側は、自分が困っていることを自然にその言葉の中に入れます。困りごとは時間とともに増えるので、範囲も時間とともに増えます。

この2つが重なると、断る理由を毎回こちらが作らなければならなくなります。断る理由を毎回作るのは消耗します。消耗を避けるために受けてしまい、次はもっと断りにくくなります。

御用聞き型と、モジュール型

継続契約には、実務上二つの形があります。

御用聞き型モジュール型
月額の根拠相手の予算感や過去の取引額提供する単位の数
含まれる作業依頼されたことあらかじめ決めた単位
上限なし単位の数として存在する
稼働の予測できないできる
増やしたいとき値上げ交渉が必要単位を足せばよい

御用聞き型が悪いわけではありません。相手のことを深く知っている段階では、細かく決めないほうが早く動けます。問題は、その形のまま何年も続けることです。相手の事業が伸びるほど依頼は増えますが、月額は最初に決めた額のまま残ります。

モジュール型に変えるとは、提供しているものを数えられる単位に置き換えることです。 「サイトの運用」なら、月次の更新、記事の公開、問い合わせへの一次対応、月次のレポート、というように分けます。分けた単位ごとに、月に何回までかを決めます。

このとき、単位は相手にとって意味のある形で切ってください。「作業時間8時間」よりも「記事の公開4本」のほうが、相手は何を買っているかが分かります。分かるものは、増やすときにも話が早く進みます。

数えられる単位に落とす手順

いま結んでいる契約を立て直す場合は、次の順で進めます。

  1. 直近3か月の依頼を全部書き出す。 メール、チャット、口頭の依頼をすべて拾います。件数と、それぞれにかかった時間を並べます。
  2. 同じ種類の依頼をまとめる。 10件が3種類に収まることがほとんどです。ここで出てきた種類が、そのままモジュールの候補になります。
  3. 種類ごとに、月あたりの平均回数を出す。 平均ではなく、3か月のうち最も多かった月の数を使ってください。上限は、最も忙しい月に耐えられる数でなければ意味がありません。
  4. 契約書に書けない依頼を見つける。 「ちょっと相談したい」のような、時間だけ取られて成果物が残らないものです。これは回数ではなく、時間で上限を決めます。
  5. 合計時間を月額で割る。 ここで出た数字が、いまの実効時間単価です。

5の数字を見てから、次の交渉の中身を決めます。順番を逆にして、先に「値上げしたい」と思ってから根拠を探すと、話が感情的になります。数字を先に出してください。

なお、この計算は1件あたりの収支を見る作業と地続きです。獲得にかかった費用を含めて何か月で回収できるかという見方は、サブスクのLTV計算方法に整理してあります。

上限を超えたときの扱いは3通り

上限を決めても、超える月は必ず出ます。超えたときにどうするかを決めていないと、上限は無いのと同じです。扱い方は3つあり、それぞれ副作用が違います。

扱い内容副作用
超過料金上限を超えた分を、単位あたりの金額で別途請求する請求のたびに説明が要る。単価を低く設定すると、超過が常態化する
繰り越し使わなかった分を翌月に回せる溜まった分が特定の月に集中し、こちらの稼働が読めなくなる
打ち切り上限に達したらその月は受けない関係が硬くなりやすい。緊急時の例外を別に決める必要がある

実務では、超過料金を基本にして、繰り越しは付けないか、翌月までの1か月だけにする形が扱いやすくなります。繰り越しを無制限にすると、こちらの都合で止められない負債が積み上がります。

超過料金の単価は、契約内の実効単価より高くしてください。同額にすると、上限の中に収めようとする動機が相手側に生まれません。上限は、相手に計画的に使ってもらうための仕組みでもあります。

法律が下支えしている部分

範囲を決めることは、こちらの工夫であると同時に、法律の側からも支えられています。

公正取引委員会と厚生労働省の案内によると、フリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は令和6年11月1日に施行されました。発注事業者には、業務委託をした際に、書面または電磁的方法で取引条件を明示することが義務付けられています。

公正取引委員会のQ&Aによると、明示すべき事項は次のものです。

  • 業務委託事業者および特定受託事業者の名称
  • 業務委託をした日
  • 給付・役務の内容
  • 給付・役務提供の期日
  • 給付・役務提供の場所
  • 報酬の額および支払期日
  • 検査をする場合は、検査完了日
  • 現金以外の方法で支払う場合は、支払方法に関すること

「給付・役務の内容」が明示事項に入っていることが、この記事の主題に直接関わります。何を提供するのかを書いてもらうことは、こちらの要望ではなく、発注側の義務として定められています。書かれていないまま始まっている契約は、その時点で整っていない状態です。

報酬の支払期日は、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内で定めることとされています。また、同法第5条は、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更およびやり直しを禁止しています。この7つは、いずれも1か月以上の期間行う業務委託が対象です。 同条第1項の柱書が業務委託を「政令で定める期間以上の期間行うもの…に限る。以下この条において同じ」と定めており、第2項の2類型にもこの限定がかかるためです(e-Gov法令検索・同法第5条)。厚生労働省兵庫労働局の説明資料も「フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、7つの行為を禁止」と記載しています。したがって、単発や1か月未満の契約では、この7つの禁止規定は適用されません。自分の契約がどちらに当たるかを、契約期間から確かめてください。

なお、この法律の運用は動いています。公正取引委員会は令和7年12月10日の発表で、同法第22条に基づき、令和7年10月までの間に128名の事業者に対して是正を求める指導を行ったとしています。

法律があるからといって、こちらが何も書かなくてよいわけではありません。明示されるのは発注側が考えた範囲です。その範囲が実態と合っているかを見て、合っていなければ書き直してもらう。 そこはこちらの仕事です。

記録がないと、交渉ができない

範囲を立て直す交渉で最も効くのは、実績の記録です。

必要なのは、月ごとの依頼件数と実働時間の2つだけです。細かい工数管理は要りません。依頼が来た日時と種類、かかった時間を1行ずつ残すだけで、3か月分あれば十分な材料になります。

記録があると、話し方が変わります。「最近多い気がします」ではなく「契約時は月4件の想定でしたが、直近3か月は平均7件です」と言えます。前者は印象の話なので反論できますが、後者は事実の話なので、次に決めるのは対応だけになります。

記録がないまま値上げを切り出すと、相手からは唐突に見えます。唐突に見えると、金額の話ではなく信頼の話になり、そこからの立て直しは難しくなります。

見直しの時期を、契約に埋め込む

一度決めた範囲も、相手の事業が変われば合わなくなります。合わなくなるたびに交渉するのは、双方にとって負担です。

契約に見直しの時期を書いておくと、交渉が定例になります。 半年ごと、あるいは年度の切り替わりに、直近の実績を持ち寄って範囲と金額を確認する、と書いておくだけです。書いてあれば、話を切り出すのに理由が要りません。

同時に、解約の条件も決めておいてください。何か月前に申し出るか、日割りにするか、引き継ぎの範囲はどこまでか。ここを決めていないと、終わり方で揉めます。終わり方で揉めた相手は、紹介元にはなりません。

つまずきやすいところ

  • 上限を決めたのに、超過を請求しない。 請求しなければ上限は存在しません。1回目の超過で請求することが、いちばん角が立ちません。回を重ねるほど、請求は言い出しにくくなります。
  • 単位を作業時間だけで切る。 相手には何を買っているのかが見えず、価格の根拠を聞かれ続けます。成果物や対応範囲の単位を混ぜてください。
  • 緊急対応を範囲の外に置いたまま放置する。 外に置くだけでは足りません。何を緊急と呼ぶか、そのときの料金と対応時間帯まで決めて初めて、外に置いたことになります。
  • 相手の担当者が代わったときに、範囲を伝え直さない。 前任者との合意は、後任者には引き継がれていないことがあります。担当が代わったら、範囲の書面をもう一度渡してください。
  • 値下げの相談に、範囲を減らさずに応じる。 金額を下げるなら、単位の数も同時に減らします。金額だけ下げると、実効単価が一段下がったところで固定されます。