広告からの申し込みは毎月あるのに、会員数の合計はほとんど動かない。この状態で最初に手を付けるべきなのは、集め方ではありません。入った人が続く形になっていないところです。
続かない状態のまま獲得を増やすと、支出だけが増えます。この記事では、純増で見る考え方、売り切り型の販売導線を流用したときに何が起きるか、確かめる手順、そして契約直後にやることを順に整理します。解約まわりの決まりについては、通信販売のルールも確認します。
「増えない」は、獲得ではなく純増の問題
会員数が動かないとき、見るべき数字は3つです。
| 見る数字 | 意味 |
|---|---|
| 新規の獲得数 | その月に入った人 |
| 解約数 | その月に抜けた人 |
| 純増 | 獲得数 − 解約数 |
毎月20人入って18人抜けていれば、純増は2人です。このとき「申し込みが月20件ある」という事実は、ほとんど何も保証しません。
純増が小さい状態で獲得を増やすと、抜ける人数も同じ割合で増えます。分母が大きくなるだけで、残る人数はあまり変わりません。増えるのは獲得にかけた費用だけです。
しかも、抜けた人の獲得費は戻りません。1人あたりの獲得費が11,000円で、月次の限界利益が2,200円なら、回収には5か月かかります。2か月で抜けた人については、6,600円が回収できないまま残ります。この構造はサブスクのLTV計算方法で詳しく整理しています。
売り切り型の導線をそのまま使うと、契約後が空く
うまくいかないサブスクの多くは、売り切り型の販売導線をそのまま流用しています。
売り切り型では、契約の瞬間が山場です。そこまでに期待をできるだけ高め、決済してもらえば取引は完了します。読み手の背中を押す設計に力を注ぐのは合理的です。
サブスクでは、契約は始まりにすぎません。契約後に価値を感じてもらえなければ、翌月に抜けます。ところが導線を流用すると、力の配分が逆になります。
| 売り切り型 | サブスク | |
|---|---|---|
| 山場 | 契約の瞬間 | 契約後、価値を実感するまで |
| 期待値の扱い | 高めるほど売れる | 高めすぎると落差で抜ける |
| 契約後の設計 | なくても成立する | ここが本体 |
期待値を上げすぎることの副作用は、サブスクでははっきり出ます。「これさえあれば解決する」と受け取った人が、実際に使ってみて手間がかかると分かったとき、落差が解約の理由になります。契約前に上げた分だけ、落差は大きくなります。
契約後が空いている状態は、自分では気づきにくいものです。契約完了のメールを最後に、こちらから何も届いていないなら、空いていると考えてよいと思います。
「ザル集客」になっているかを確かめる
次の3つで確かめられます。
1. 契約から1〜2か月で抜ける人の割合を見る
契約した月ごとに、その後何人残っているかを並べます。1〜2か月目の落ち方が、その後の月に比べて目立って急なら、問題は契約前後にあります。反対に、どの月もなだらかに減っているなら、サービスの中身か価格の問題です。手当てする場所がまったく違うので、ここを分けずに対策を始めないでください。
2. 回収に要する月数と、平均の継続月数を並べる
獲得費を1人あたりの月次の限界利益で割ると、回収に何か月かかるかが出ます。この月数が平均の継続月数に近づいているなら、獲得すればするほど資金が細ります。
3. 契約直後に何をすればよいかを、顧客任せにしていないか
「ログインすればすべて使えます」という状態は、顧客から見ると「どこから手を付ければよいか分からない」状態です。入口で止まった人は、使わないまま翌月の請求を見て解約します。
この3つのうち、入口ごとに分けて見たときに差が出るかどうかも確認してください。割引で集めた層だけ1か月目の離脱が急なら、その入口を絞るだけで純増が変わります。契約した月と入口が分からないと、この切り分けはできません。記録の持ち方は顧客リストを自社で持つで整理しています。
引き止めで解約を減らそうとしない
解約が増えると、解約の手続きを分かりにくくする方向の対応を考えたくなります。ここは慎重に判断してください。通信販売には、特定商取引法による決まりがあります。
消費者庁の「特定商取引法ガイド」によると、インターネット等で申込みを受ける通信販売では、法第12条の6第1項により、申込みの最終確認画面で次の事項を表示する必要があるとされています。
- 分量
- 販売価格(役務の対価)。送料についても表示が必要
- 代金(対価)の支払時期、方法
- 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
- 申込期間の定めがあるときは、その旨と内容
- 契約の申込みの撤回または解除に関する事項(売買契約に係る返品特約がある場合はその内容を含む)
あわせて、同条第2項により、契約の申込みとなることを誤認させるような表示や、上記の事項について誤認させるような表示が禁止されています。また法第14条では、申込み内容を容易に確認し、かつ訂正できるように措置していないことが、「顧客の意に反して」契約の申込みをさせようとする行為として禁止されています。広告の表示事項としても、契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨および販売条件または提供条件を示すことが求められています。
つまり、解約の条件を分かりにくく書く、申し込み内容を確認しづらくする、といった方向の工夫は、施策の巧拙ではなく法令上の問題になります。解約の条件は、契約前に分かりやすく示しておく前提で設計してください。
現実的にも、引き止めで残した人は翌月にまた抜けます。回収が1か月分伸びるだけで、事業の形は変わりません。
獲得に使っている時間の一部を、契約直後に振り替える
やることは1つです。新規獲得に使っている時間の一部を、契約直後の数週間に回します。
最初に決めるのは、顧客が「使えている」と言える状態はどこかです。学習系なら最初の1本を終えたところ、道具なら最初の設定が終わって1回使えたところ、といった具合に、1つに絞ります。絞ったら、そこまでの距離を短くします。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| 定着したと判断する地点 | 最初の設定を終えて1回使った |
| そこまでの案内 | 契約当日・3日後・10日後に1通ずつ |
| 案内に書くこと | 次にやること1つだけ。選択肢を並べない |
| 見る数字 | 契約から2週間でその地点に着いた人の割合 |
案内を何通も出す必要はありません。1通に1つだけ書くほうが、着地率は上がります。選択肢を並べると、読んだ人はどれも選ばずに閉じます。
この案内は、一度作れば以後は同じものを使い回せます。手順として書き出しておくと、人に渡すこともできます。書き出し方は業務標準化マニュアルの作り方と同じ考え方です。
獲得コストの側は、入口を増やして抑える
定着の側を直したうえで、獲得費の側も見ます。継続月数が伸びれば1人あたりの回収額が増えるので、同じ獲得費でも回収が終わる割合が上がります。ここまで来て初めて、獲得を増やす判断ができます。
そのうえで、広告だけに入口を頼らないようにします。同じ枠を狙う相手が増えれば入札の単価は上がり、獲得費は放っておいても上がっていきます。検索や紹介など、費用が売上に比例しない入口を持っておくと、この上昇をそのまま受けずに済みます。入口の作り方はWeb集客の仕組み化で整理しています。
つまずきやすいところ
解約理由のアンケートだけで判断する
抜ける人の多くは、アンケートに答えずに抜けます。答えてくれた人の理由は貴重ですが、全体の傾向とは限りません。残存の数字と突き合わせてください。
機能を足して引き止めようとする
使えていない人にとって、機能が増えることは負担が増えることです。入口で止まっている人に効くのは、機能ではなく「次にやること1つ」の提示です。
値下げで解約を止めようとする
値下げは1人あたりの限界利益を直接下げます。継続月数が少し伸びても、回収に要する月数が同時に伸びるため、差し引きで悪化することがあります。手を付ける順番としては最後です。
全部の入口を一度に止める
離脱が急な入口を絞るのは有効ですが、同時に全部止めると、定着の改善が効いているかどうかを確かめる母数がなくなります。1つずつ動かしてください。
会員数が増えないときは、獲得数ではなく純増を見てください。そのうえで、契約から1〜2か月の落ち方が急なら、直す場所は集め方ではなく契約直後です。まずは「使えている」と言える地点を1つ決めて、そこまでの案内を3通用意するところから始めてください。



