一度サイトを見た人を追いかける広告は、はじめて見る人への広告より数字が良く出ます。獲得単価が下がり、管理画面の成果も増える。それなのに、月末に残る利益は増えていない。

この差は、獲得単価という指標が、獲得した人の質を区別しないことから生まれます。この記事では、リターゲティング広告が何をしているのかを確認したうえで、数字が良く見える理由、判断の基準を獲得単価から手元に残る額へ移す手順、そして自社のデータを媒体に渡すときの確認事項を整理します。

追いかける広告が何をしているか

リターゲティング広告は、自社のサイトやアプリを訪れた人の閲覧記録をもとに、その人が他の場所を見ているときに広告を表示する仕組みです。配信する相手を、すでに一度接点のあった人に絞ります。

絞るので、反応は出やすくなります。商品を知らない人に説明するところから始める必要がなく、思い出してもらうだけで足りるためです。同じ予算でも、クリック率も申し込み率も、はじめて見る人への配信より高く出ます。

ここまでは仕組み通りです。問題は次です。もともと買うつもりだった人にも、同じように配信されます。カートに入れたまま席を立った人が、広告を見ずに戻ってきて買ったとしても、広告の成果として数えられることがあります。この分は、広告費をかけなくても発生していた売上です。

つまり、リターゲティング広告の管理画面の数字には、広告が作り出した売上と、もともと発生していた売上が混ざります。そのまま「獲得単価が安い」と読むと、実際より効いているように見えます。

獲得単価を目標にすると、集まる層が寄っていく

多くの広告媒体には、目標の獲得単価を設定すると、その単価で獲得できるように配信を調整する仕組みがあります。便利な機能ですが、設定した目標が、そのまま集まる顧客の質を決めます。

目標を「安く獲得すること」に置けば、安く獲得できる人へ配信が寄ります。安く獲得できる人とは、多くの場合、迷いが少ない人です。そして迷いが少ない理由が「初回が無料だから」「割引があるから」であれば、その人たちは条件が終わった時点で離れます。

目標の置き方寄っていく先起きること
獲得単価を安くすぐ申し込む層件数は増える。継続は増えない
入金額実際に支払う層件数は減る。粗利は残る
一定期間の継続使い続ける層件数はさらに減る。回収が終わる

件数が減ることを損失と感じやすいのですが、判断すべきは件数ではなく、獲得にかけた費用が回収できているかどうかです。1人あたりの限界利益と、回収に何か月かかるかの出し方はサブスクのLTV計算方法で整理しています。

あわせて、獲得単価は放っておいても上がります。同じ枠を狙う相手が増えれば入札の単価が上がり、関心の高い層から先に獲得していくので、続けるほど反応の薄い層に当たるようになるためです。広告以外の入口を持っておくと、この上昇をそのまま受けずに済みます。入口の作り方はWeb集客の仕組み化で整理しています。

媒体の画面の合計は、実際の受注件数と合わない

複数の媒体を使っていると、各画面に出ている成果件数を足したくなります。ここは足さないでください。

媒体ごとに、どこまでを自分の成果として数えるかの決まりが違います。広告を見てから何日以内の申し込みを数えるか、クリックしていなくても表示だけで数えるか、といった条件が媒体ごとに設定されています。結果として、同じ1件を複数の媒体が自分の成果として数えることが起こります。

確かめ方は簡単です。自社側で数えた受注件数と、各媒体の件数の合計を並べます。合計のほうが多ければ、重複しています。差が大きいほど、媒体の数字を根拠にした配分は当てになりません。

判断の基準は、自社側の記録に置いてください。誰がいつ申し込み、どこから来て、その後どうなったかを自分で取り出せる状態が要ります。整え方は顧客リストを自社で持つで整理しています。

返す成果の定義を、手元に残る側へ動かす

配信を寄せたい先が変わるなら、媒体に返す「成果」の定義を変えます。

多くの場合、初期設定ではフォーム送信やボタンの押下が成果になっています。これを、実際に手元に残る時点へ動かします。

  1. 入金が確認できた時点にする。申し込みだけで離脱する分が成果から外れる
  2. 一定期間続いた時点を足す。たとえば契約から60日経過を成果として返す
  3. 2回目の購入を足す。単発で終わる層と続く層が分かれる

一度に全部を変える必要はありません。まず1番だけでも、集まる層は変わります。返す件数が減るため、媒体側の調整が安定するまでに時間がかかる点は見込んでおいてください。

2番や3番を使うには、契約からの経過日数を自分で追えている必要があります。ここでも、記録が自社側にあるかどうかが効きます。

データを渡す前に、法律上の確認をする

自社の顧客データを広告媒体に渡す運用には、個人情報保護法の確認が必要です。

個人情報保護委員会は、個人データを第三者に提供する場合は、あらかじめ本人の同意を得ることを原則としています。広告媒体に渡す行為は、この第三者提供にあたり得ます。

閲覧履歴のようなデータについても、別の定めがあります。同委員会の説明によると、「個人関連情報」とは「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの」を指し、個人の属性情報(性別・年齢・職業等)、ウェブサイトの閲覧履歴、位置情報などが想定されています。

そして、個人関連情報を第三者に提供する際、その第三者が個人データとして取得することが想定される場合には、「当該第三者が個人関連情報の提供を受けて本人が識別される個人データとして取得することを認める旨の当該本人の同意が得られていること」が原則として必要とされています。外国にある第三者へ提供する場合には、あらかじめ、その外国における個人情報の保護に関する制度や、当該第三者が講ずる保護のための措置その他本人に参考となるべき情報が本人に提供されていることを、あらかじめ確認しなければならないとされています。

実務としては、先に次を確認してください。

確認すること確認する場所
取得時に伝えた利用目的に、広告配信のための外部提供が含まれているか登録フォーム、自社サイトの掲示
同意を取っているか、その記録が残っているか申し込み時の記録
渡す先の事業者が国内か国外か利用している媒体の規約

利用目的に書いていないことは、後から足しても過去に集めた分には及びません。これから集める分の書き方を先に直し、過去の分は同意を取り直すのが順序です。判断に迷う内容を含む場合は、専門家に確認してください。

経路ごとに、その後どうなったかを見る

獲得単価の比較だけで経路を選ぶと、安い経路に寄っていきます。見るべきは、そのあとです。

契約した月と流入経路で分けて、1か月後、3か月後、6か月後に何人残っているかを並べてください。全体の平均では消えてしまう差が出ます。

  • 獲得単価は高いが、半年後も多く残っている経路
  • 獲得単価は安いが、2か月でほとんど残っていない経路

後者に予算を寄せていた場合、件数の伸びと引き換えに粗利を落としていたことになります。この見方は、契約直後の落ち方を確かめる方法と同じです。詳しくはサブスク会員が増えない原因で整理しています。

表計算ソフト1枚で足ります。列に経過月数、行に契約した月と経路を置き、残っている人数を入れるだけです。3か月ぶんたまれば、傾向は読めます。

つまずきやすいところ

追いかける期間を長く取りすぎる

一度見ただけの人を何週間も追いかけると、関心が薄い人への表示が増えます。表示が増えるほど、見た人の印象は悪くなります。期間は短く始めて、成果を見ながら延ばしてください。

除外設定をしない

すでに購入した人、すでに契約している人を除外しないと、買った直後にその商品の広告を見せることになります。除外リストの設定は、最初に済ませてください。

成果の定義を変えた直後に判断する

返す件数が減るため、配信の調整が落ち着くまでに時間がかかります。数日で元に戻すと、どちらの設定も評価できません。

媒体の推奨設定をそのまま使う

推奨されている設定は、多くの広告主にとって無難な設定です。自社の回収期間や粗利の構造に合っているとは限りません。目標に何を置くかだけは、自分で決めてください。


リターゲティング広告を評価するときは、管理画面の獲得単価ではなく、自社側の記録で見た入金額と、その後の残り方を基準にしてください。まずは自社で数えた受注件数と、媒体の件数の合計を並べて、どれだけずれているかを確かめるところから始めてください。