案件が終わるたびに、次の仕事を探すところからやり直している。忙しいのに手元に残らない。この状態が続くのは、単価が安いからではなく、1社あたりの取引が1回で終わっているためです。

受託の仕事は、納品した時点で関係が切れます。次の売上を作るには、また新しい相手を探すことになります。この記事では、1社あたりいくら残るかの出し方、個別対応が移行を止める仕組み、継続契約に変えるときに先に決める条件を順に整理します。

1社あたりで見ると、何が起きているかが分かる

受託の数字を案件ごとに見ていると、取引が1回で終わっていることに気づきにくくなります。1社あたりで見てください。

1社あたりの残り = 年間の粗利 × 取引が続いた年数 − その1社を取るのにかかった費用

粗利は、受注額から外注費・材料費など、その案件のために直接出ていった費用を引いた額です。取るのにかかった費用には、広告費だけでなく、提案書を作り、打ち合わせに出向いた時間も含めます。

たとえば年間の粗利が60万円で、取引が1年で終わるなら60万円。提案に20時間かけていて、自分の時間を1時間5,000円で数えるなら10万円が出ていて、残りは50万円です。同じ相手と3年続けば、粗利は180万円で、取るための費用は最初の1回だけです。

取引が続く年数は、単価よりも大きく効きます。単価を2割上げるのは難しいことが多いのに対して、1年で終わっていた取引を2年にすると、1社あたりの残りはほぼ倍になります。

継続契約を足した場合は、月額の粗利に12と継続年数を掛けたものを加えます。月額5万円のうち粗利が4万円で2年続くなら、96万円が上に乗ります。

納品後に必要なものを切り出す

継続契約と聞くと、新しいサービスを作らなければいけないように思えますが、たいていは既にやっていることの中にあります。納品して終わりにしていた作業のうち、納品後も必要になるものを探してください。

受託で作っているもの納品後も必要になること
Webサイト更新、表示の確認、問い合わせ対応の設定
資料・原稿数字の差し替え、表現の見直し
業務の仕組み運用の相談、想定外が起きたときの判断
撮影・制作物素材の保管、使い回しの許諾管理

これらは、頼まれれば都度やっていることが多いはずです。都度対応は、そのたびに見積もりを出して、相手の決裁を待つことになります。月額にまとめると、こちらは手が読めるようになり、相手は毎回の決裁が要らなくなります。

新しい相手を探すより、すでに納品した相手にもう一度売るほうが、費用も時間もかかりません。連絡先が手元にあるかどうかで、ここが決まります。記録の持ち方は顧客リストを自社で持つで整理しています。

個別対応が、移行を止めている

移行が進まない理由のほとんどは、意志ではなく構造です。

案件ごとに仕様が違うと、作ったものを次の案件に使い回せません。毎回ゼロから作るので、売上が伸びても手は空きません。手が空かないので、使い回せる形に整える時間も取れない。同じ状態が続きます。

この構造は、腕がいいほど強くなります。相手の要望に細かく合わせられると、合わせることが価値になり、標準化する理由がなくなるためです。その先で何が起きるかは経営者の自己搾取で整理しています。

抜け方は1つです。2回目以降のコストを下げること。同じ作業でも、手順と部品が残っていれば次回は短い時間で終わります。

  • よく出る要望を3つか4つの型にまとめる
  • 型ごとに、使い回せる部品(雛形、設定、チェックリスト)を残す
  • 型から外れる要望は、別料金の追加として扱う

型を作ると受注を逃すのではないかと心配になりますが、実際には逆のことが起きやすくなります。選択肢が絞られているほうが相手は決めやすく、見積もりも早く出せます。手順の書き出し方は業務標準化マニュアルの作り方を参照してください。

労働集約のまま止まっているかの確認

次の3つで確かめられます。

  1. 売上が止まっている月に、手を動かしていない時間がどれだけあるか
  2. 見積もりの根拠が、自分の頭の中にしかないか
  3. 同じ説明を、相手ごとに一から繰り返していないか

当てはまるほど、自分が抜けられない構造になっています。1つ目が「ほぼゼロ」なら、まず時間を空けるところからです。空け方はフリーランスの稼働限界を超えるで整理しています。

継続契約に変えるとき、条件を先に書く

月額に変える際に、いちばん危ないのは「今まで通りで、月◯万円」という決め方です。今まで通りが何を指すのかが決まっていないと、含まれる範囲は相手の理解で決まります。

取引条件を書面等で示すことは、実務上の工夫であると同時に、法律上も求められています。厚生労働省の案内によると、フリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は令和6年11月1日に施行され、発注事業者には次のことが義務付けられています。

  • 業務委託をした際の取引条件の明示
  • 給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払
  • ハラスメント対策のための体制整備等

受ける側から見れば、条件を明示してもらうことは求めてよい事柄です。逆に、自分が誰かに一部を渡す側に回るときは、こちらが明示する側になります。どちらの立場でも、先に書いておくことが前提になっていると考えてください。

自分の契約書に書くこととしては、少なくとも次が要ります。

決めること書き方の例
含まれる作業月次の更新2回まで、軽微な修正は1回30分以内
含まれない作業新規ページの制作、撮影、他社ツールの設定
上限を超えたとき30分あたり◯円で別途見積もり
対応する時間帯平日10〜18時。緊急対応の扱いを別に定める
解約の条件1か月前の申し出。日割りの有無

上限を数字で書くことが要点です。「常識の範囲で」と書くと、常識の中身が相手ごとに違うため、結局は際限がなくなります。

価格は、人月ではなく維持する価値で決める

月額の価格を作業時間から積み上げると、こちらが早く終えるほど受け取る額が減ります。改善するほど損をする形になるので、標準化の動機がなくなります。

価格は、維持される状態に対して付けてください。止まらない、遅れない、聞ける相手がいる、といった状態です。相手にとっての価値は、こちらが何時間動いたかではなく、その状態が保たれることにあります。

規模に応じて段階を作るのは有効です。ページ数、拠点数、取り扱い量など、相手の側で増えていくものを基準にすると、相手の事業が伸びたときにこちらの売上も伸びます。

そのうえで、月額の収支は1件あたりで確かめてください。月額の粗利と、その契約を取るのにかかった費用を並べると、回収に何か月かかるかが出ます。出し方はサブスクのLTV計算方法で整理しています。

サブスク化で詰まるのは、たいていサポート

月額に変えたあと、契約数が増えるにつれて問い合わせも増えます。人手で支える前提のままだと、契約の増加がそのまま労働時間の増加になります。ここで止まると、単発の受託に戻ることになります。

先に手を打っておく順番は次の通りです。

  1. 問い合わせを内容ごとに数える。件数の多いものから並べる
  2. 多いものから文書や短い動画にする。契約者が自分で見つけられる場所に置く
  3. 人が対応するのは、例外と判断が要る場面だけに絞る
  4. 1件あたりの対応時間を測っておく。何件までなら回るかが見える

4つ目を飛ばすと、限界が来てから気づくことになります。契約数と対応時間を毎月記録しておくだけで構いません。

契約直後の案内を用意しておくと、そもそも問い合わせが減ります。この設計はサブスク会員が増えない原因で整理した考え方がそのまま使えます。

つまずきやすいところ

受託を止めてから移行しようとする

移行には時間がかかります。受託を止めると、その間の売上がなくなります。受託を続けながら、納品した相手に月額を提案していく形が現実的です。

全員に同じ月額を提案する

納品した相手すべてに継続の必要があるわけではありません。運用が続くもの、更新の頻度が高いものから声をかけるほうが、決まる率は高くなります。

単価を下げて継続を取る

月額を安くしすぎると、対応のたびに赤字が出ます。含まれる範囲を狭くして価格を保つほうが、続けられます。

契約書を後回しにする

口頭で始めると、範囲の認識がずれたときに直す根拠がありません。最初の1件目から、含まれる作業と上限を書いた紙を用意してください。


受託から抜けるかどうかは、意識ではなく2回目以降のコストが下がっているかで決まります。まずは直近の案件を3つ並べて、共通している作業を書き出すところから始めてください。そこが、月額にまとめられる部分です。