創業融資でつまずくのは、借りられなかったときよりも、借りられた後であることのほうが多くあります。審査に通った時点で口座の残高は最大になり、そこから先は減っていくだけだからです。

減り方の速さを決めるのは、金額ではなく使いみちです。同じ500万円でも、翌月に現金として戻ってくる使い方と、戻ってこない使い方があります。この記事では、公的な制度の資料で確認できる範囲から、資金使途をどう組み立てるかを整理します。

「資金使途」は、借りる前に決まっている

融資は、何に使うかを決めてから申し込みます。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、対象を「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」とし、資金の使いみちを「新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金」としています。融資限度額は7,200万円です。

ここで設備資金と運転資金が並べて書かれていることが、実務では重要になります。この2つは、返済の条件が違います。

設備資金運転資金
何に使うか建物、内装、機械、車両、システムなど仕入、外注費、人件費、家賃などの日々の支出
返済期間20年以内10年以内
据置期間5年以内5年以内

(日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」の記載による)

返済期間が倍違うのは、回収にかかる時間が違うからです。設備は長く使って少しずつ回収するもの、運転資金は仕入れて売って短い周期で回るものとして設計されています。この区分を無視して使うと、返済の組み立てのほうが先に崩れます。

なお、金利には条件による区分があります。同資金では、女性の方、35歳未満または55歳以上の方は特別利率A、創業塾や創業セミナーなどを受けて認定市区町村が発行する証明書を取得した方も特別利率A、日本ベンチャーキャピタル協会の会員などから出資を受けている方は特別利率Bといった扱いが示されています。自分が該当するかは、申し込む前に確認しておく価値があります。

失敗は「換金できないものに一括で払う」ときに起きる

資金使途の失敗には、はっきりした型があります。売上がまだ立っていない段階で、換金しにくいものに一括で払うという型です。

  • 受注が確定していない状態での内装や設備の導入
  • 権利金、加盟金、長期のライセンス料の一括払い
  • 需要を確かめる前の、フルスペックのシステム開発
  • 年間契約でまとめて払うツール類

いずれも、払った瞬間に現金が資産に変わります。資産は返済に使えません。返済は現金でしか行えないので、資産が増えるほど返済原資は細くなります。しかも、これらは途中でやめても戻ってきません。事業の方向を変えたくなったときに、変える費用まで上乗せされます。

見分け方は単純です。その支出について、次の2つを自分に聞いてください。

  1. 来月やめたくなったら、いくら戻ってくるか。 ゼロに近いなら、それは一括で払うべきものではありません。
  2. 払った後、最初の現金が戻ってくるのは何か月後か。 分からないなら、まだ払う段階ではありません。

現金が減る速さを、先に測る

使いみちを考える前に、いまの状態を数字にしてください。必要なのは2つだけです。

  • 月に確実に出ていく額:家賃、人件費、通信費、ツール類、借入金の返済と利息の合計
  • いまの残高

残高をこの額で割ると、何か月持つかが出ます。中小企業基盤整備機構の起業マニュアルは、運転資金の項目について、開業当初は必要な金額の「2〜3ヶ月分があると安心」としたうえで、費用を変動費(材料費や仕入費用など)と固定費(人件費や賃貸料など)に分けて月単位で積み上げ、借入金の返済利息や元金などの支出項目を忘れずに計上することを挙げています。

返済を計算に入れ忘れると、持ち時間を長く見積もります。融資を受けた直後はここを間違えやすくなります。据置期間中は元金の返済がないため、その間の支出だけを見ていると、据置が終わった月から急に苦しくなります。据置期間は、返済が無い期間ではなく、返済が始まるまでの猶予です。

手元に残す額を決めてから、残りを配る

現金が減る速さが出たら、逆に「これ以下にはしない」という額を先に決めます。2〜3か月分を目安に置くなら、その額は使える資金から外して考えます。

残った分を配るときの順番は、回収までの時間が短いものからです。

優先使いみち理由
仕入、外注費など、売上と直接つながる支出短い周期で現金に戻る
受注が見えている案件のための設備回収の相手が決まっている
需要を確かめる前の開発、長期契約、内装の作り込み戻る時期が読めない

この順番は、一度に全部を配らないという意味でもあります。小さく試して反応を見てから残りを投じる形にすれば、見込みが外れたときの損失が、試した分だけで止まります。

判断の基準は、感覚ではなく1件あたりの収支に置いてください。1人の顧客からいくら残り、獲得にいくらかかり、何か月で戻るか。この出し方はサブスクのLTV計算方法に整理してあります。継続課金でなくても、考え方は同じです。

借りすぎも、資金使途の失敗として現れる

多く借りられたこと自体は悪いことではありません。問題は、残高が大きいと支出の判断が緩むことです。

口座に数百万円あると、月10万円の契約は小さく見えます。ところがその契約は12か月で120万円、3年で360万円になります。残高で判断すると小さく、月の支出で判断すると大きい。判断の基準を残高に置くと、固定費は必ず増えます。

確かめ方は、先ほどの割り算です。新しい支出を検討するときは、それを加えた後の月次支出で残高を割り直してください。持ち時間が何か月縮むかが、その契約の本当の値段です。

事業のお金と生活のお金が混ざっていると、この計算はできません。混ざったままだと、事業が伸びていないのか、生活費に吸われているのかも分かりません。この切り分けはスモールビジネスがスケールしない原因で扱っています。

使いみちが計画とずれてきたら

事業を始めれば、計画とは違うことが起きます。設備資金として借りた分を運転に回したくなる場面も出てきます。

ここで自己判断で流用しないでください。 融資は、申込時に示した使いみちを前提に、金額も返済期間も決まっています。前提が変わるなら、変わったことを借入先に伝えるのが順序です。返済条件の見直しを含めて、扱いは借入先との相談事項になります。

黙って使いみちを変えて、後から資金が足りなくなって相談に行くと、説明できることが減っています。早い段階の相談ほど、選べる手段は多くあります。

審査で見られているのは、金額より根拠

これから申し込む場合も、考え方は同じです。審査で見られているのは、いくら必要かという数字そのものではなく、その数字がどこから出てきたかです。

  • 設備資金:見積書があるか。金額が見積書と一致しているか
  • 運転資金:月ごとの支出を積み上げた結果になっているか
  • 売上の見込み:単価と件数に分解されているか。件数の根拠が言えるか

切りのいい数字が並んでいる計画は、積み上げていないことがすぐに分かります。逆に、端数のある数字が並んでいれば、少なくとも計算はされていると読めます。金額を盛るより、根拠を揃えるほうが通ります。

そして、借りた後に効いてくるのも同じ根拠です。月ごとの支出を積み上げて申し込んだ人は、借りた後もその表を更新できます。更新できる人は、ずれた月にずれたと気付けます。

つまずきやすいところ

  • 据置期間を、返済が無い期間だと思って使う。 元金の返済は始まります。据置期間中から、返済開始後の月次支出で持ち時間を計算してください。
  • 年間契約でまとめ払いして「安くした」と考える。 単価は下がっても、手元の現金は一度に減ります。単価と流動性は別の話です。
  • 売上の入金時期を、受注日で数える。 請求から入金まで1〜2か月空く取引では、受注が増えるほど現金は先に減ります。運転資金は、この時間差を埋めるためのお金です。
  • 残高が減り始めてから動く。 減り始めてからでは、相談できる相手も手段も減っています。持ち時間が3か月を切る前に動いてください。
  • 返済を固定費として数えていない。 返済は経費ではありませんが、現金は確実に出ていきます。資金繰りの表では固定費と同じ扱いで並べてください。