創業融資が実行された日が、手元の現金がいちばん多い日です。そこから先は、売上が立ち始めるまで減っていくだけになります。
日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表、2025年8月時点、回答2,165社)では、開業時の資金調達額は平均1,219万円で、うち金融機関等からの借り入れが平均827万円(調達額の67.9%)、自己資金が平均279万円(同22.9%)でした。借り入れが調達の3分の2を占めるということは、返済が始まる時期と、売上が立ち始める時期のどちらが先に来るかが、そのまま事業の持ち時間を決めるということです。
この記事では、その持ち時間(ランウェイ)の測り方と、現金が偏って出ていきやすい場面での払い方を整理します。
残高ではなく、月に出ていく額で考える
口座の残高が大きく見えても、持ち時間が長いとは限りません。持ち時間は、残高を1か月に出ていく額で割った月数で決まります。
| 入れるもの | 例 |
|---|---|
| 固定費 | 家賃、通信費、リース料、保険料、月額のツール利用料 |
| 人件費 | 従業員の給与、社会保険料の事業主負担分 |
| 返済 | 借入金の元金返済と利息 |
| 生活費にあたる分 | 役員報酬、または事業から引き出す生活費 |
売上がまだ立っていない時期は、この合計がそのまま毎月の減少額になります。残高300万円で毎月の支出が50万円なら、持ち時間は6か月です。金額ではなく月数で見ると、判断の順番が変わります。
前掲の調査では、現在の採算状況が「黒字基調」の企業は67.0%、「赤字基調」は33.0%でした。回答企業は開業からの経過月数が平均15.5か月です。開業から1年余りたっても3社に1社は赤字基調にあるという前提で、月数を数えておく必要があります。
なお、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金には据置期間が設けられており、設備資金・運転資金とも5年以内とされています(返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内)。据置期間中は元金の返済が始まらないため、その間の減少額は利息分だけになります。据置期間が終わる月に、毎月の支出がいくら増えるのかを先に計算しておいてください。
「準備中」が持ち時間をいちばん使う
準備そのものが問題なのではありません。問題は、準備の長さを決めないまま始めることです。売上がない月も、家賃も返済も同じ額で出ていきます。
同じ調査では、予想月商達成率が100%以上だった企業は58.7%でした(125%以上が34.2%、100〜125%未満が24.5%)。裏を返せば、4割以上が開業前に見込んだ月商に届いていないということです。売上の立ち上がりは、計画より遅れる側にぶれると考えて月数を組んだほうが安全です。
準備期間を置くのであれば、支出を決める前に次の3つを決めてください。
- いつまでに、何を、いくらで売り始めるか
- その日までに必ず必要な支出はどれか
- その日が1か月遅れたとき、持ち時間は何か月残るか
3つ目に答えられない場合、準備の長さが持ち時間を超えている可能性があります。
投資と消費は「戻り方を説明できるか」で分ける
支出を投資と消費に分ける線引きは、費目ではありません。その支出が、いつ、どれだけ現金として戻ってくるかを説明できるかどうかです。
| 支出 | 戻り方を説明できるか | 扱い |
|---|---|---|
| 受注済みの案件に使う材料・外注費 | 納品後の入金として戻る | 投資 |
| 反応が実測できている広告 | 受注件数として戻る | 投資 |
| 需要が未確認のシステム開発 | 戻る時期も額も言えない | 消費に近い |
| 使っていない席の分まで契約したオフィス | 戻らない | 消費 |
戻ってくる時期が、返済や据置期間の終わりより後になる支出は、金額が小さくても先に見直す対象です。資金使途の区分そのものについては、創業融資の資金使途|手元現金を残す配分と審査の見られ方で設備資金と運転資金の違いから整理しています。
現金が偏って出ていく3つの場面
システム開発に一括で払う
開発費は払った時点で現金が出ていきますが、返済は現金でしか行えません。作るものが決まりきっていない段階で全額を発注すると、仕様変更のたびに追加の支払いが発生し、手元が薄いまま作り直すことになります。範囲を区切って段階的に発注し、実際に使われる機能が分かってから残りを投じる順番にしてください。
許認可が下りる前に設備へ払う
許可が下りるまで営業できない業種では、先に設備を整えても売上は立ちません。許認可の要件が設備の仕様を縛ることもあり、作り直しになれば二重の支出になります。所管の窓口で申請の要件と標準的な処理期間を確認し、支払いの順番を決めてください。
回収の形が見えないまま広告に払う
広告は、1件の受注にいくらかかり、その1件からいくら戻るかが実測できてから額を上げる支出です。前掲の調査では、現在苦労していることとして「顧客・販路の開拓」を挙げた企業が48.8%と最も多く、「資金繰り、資金調達」が36.2%と続きます。集客の苦しさは、そのまま資金繰りの苦しさとして現れます。だからこそ、小さく出して数字を取る段階を飛ばさないことが効きます。
減りが速いと分かったときの順番
気づいた時点で残高を見るのではなく、月ごとの資金繰り表を作って、どの月に底を打つかを先に出します。そのうえで、次の順に手を入れると、事業を止めずに月数を延ばせることが多くなります。
- 解約・減額できる契約を洗い出す(使っていないツール、過剰な席数、不要な保守)
- 先送りできる支出を後ろにずらす(設備の追加、採用、内装の追加工事)
- 入金を早める(着手金の設定、請求の締め日と支払サイトの見直し)
- それでも足りなければ、借入先に相談する
4つ目は、早いほど選択肢が残ります。中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21は、返済条件の変更(リスケジュール)について、金融機関から求められなくても経営改善計画書と資金繰り表は必ず作成する必要があるとしています。相談に行く前に、この2つが手元にあるかどうかで話の進み方が変わります。
なお、返済条件の変更は、計画がないまま行っても問題の先送りにしかならないとも指摘されています。月数を延ばす手当てと、売上の立ち上げを同時に進める前提で考えてください。
つまずきやすいところ
- 残高だけを見て安心する:月に出ていく額で割るまで、持ち時間は分かりません
- 据置期間を持ち時間に数える:据置が終わる月に支出が増えます。その月から先も数えてください
- 生活費を支出に入れ忘れる:個人事業でも法人でも、生活する分は毎月出ていきます
- 計画どおりの売上で月数を組む:立ち上がりは遅れる側にぶれます。遅れた場合の月数も出しておいてください
必要な運転資金そのものの出し方は、創業融資の運転資金はいくら必要か|所要額の出し方で扱っています。
出典
- 日本政策金融公庫総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日公表)
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 中小企業基盤整備機構 J-Net21「リスケジュールについて教えてください。」



